赤い壁のアパート

雑木林がお喋りをする 灰色い工場が出した煙が 空にある 

赤い家があった 
配水管 など管がある赤い壁のアパート 

とてつもなく大きいビルとビルの間にあって30年くらいたっている
戦争があった
みんな忘れてしまった 

つけっぱなしのTV
ため息混じりのコーヒー 新聞

7年目のカップル
30代双子のゲイ兄弟が喧嘩をしている お菓子のとりあい
頭がはげかかっている
ソファーで目付きの悪い猫がのんびり 
爪をたてる
腰の曲がったおばあちゃんが咳払いをして唾をつけて雑誌を開く 
パーマをかけた太ったくりくりした目の若い女が雑巾を絞っている 
子供が塀を見上げてる、いつかこんなとこでてやる、多分大人なんて下らない、

下水管の音がする、階上の人がトイレを流している
スーパーのビニール袋の音、コツコツするハイヒール

無頓着な通行人が
ガムテープを赤い壁に貼る 
そのうち 剥がれ落ち ガムテープのあとだけが残る 
その横に人がたに似たような黒い影が 
赤い壁にしみている 
風俗の広告が ぴらピラ風に吹かれてる 

それを見たおばさんは窓をぴしゃり 
もともとしかめつらでさらにしかめる 
鳥かごを眺める退屈しのぎをする女の子
誰も見てない大音量のテレビ、画面がチラチラ光る。濁ったバスタブに浮き輪を浮かべて漂う少年
カートを押し買い物にいくおばさん
何かを考えようとして、…考えまいといそいそ晩御飯の献立をみる
白い布にくるまれた救世主が 今日も笑う 
救世主は0歳 

ロック好きの母親が ラジオに夢中で 目玉やきを焦がしている 
ビッキー ビッキー 
ビキ ビッキー 
あたしのなまえは… 
大きくなった救世主が 窓から自分の名前を怒鳴っている 
誰もきいてなくてもかまわない
父と母は戦争に行った 

もらったのは名前だけ それでも少女は 
今日も笑う 

工場の煙突
が黒い煙をもきもくながしている